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『NHKスペシャル老人漂流社会 親子共倒れを防げ』を観ました。この番組では、中年の非正規雇用者が、高齢の親と同居することで、親子共倒れという問題が起きていることを教えてくれます。

以前、非正規雇用は、働く側にとっては働く時間や期間などを選べる良さが有り、企業にとっては、仕事量に合わせて人員を調整できる点や、人件費を抑えられるなどのメリットがありました。

しかし今では、収入が低く雇用が不安定な非正規雇用が増えたことでワーキングプアや格差などの問題が指摘されるようになっています。


一方で、老後破産や下流老人などのフレーズが生まれているように、貧困状態で生活する高齢者の問題も、深刻になっています。雑誌や書籍、テレビで刺激的な文言を見聞きする機会も増えています。


中年になった非正規雇用の子供と、それを支える年金暮らしの高齢者。そして背景にある親の介護の問題。高齢の親が中年の子供と一緒に暮らすことによって、かえって生活が苦しくなる現実。かつては想像していなかったことが起こり始めています。

私たちは、どう対処して行けば良いのでしょうか。



番組で取り上げていた実例

NHKでは、何組かの家族を取材しました。それぞれの家族により事情は異なりますが、どの家族も高齢の親と、収入が全くないか少ない子供と同居することから生じる問題を抱えています。


●安田さん親子の例

北海道札幌市厚別区もみじ団地に住む安田義明さん80歳。45歳の息子が勤め先をリストラされ去年12月より同居を始めました。息子は日払いの荷物運搬作業をしていましたが、現在は打ち切られて働いていません。

安田さんの収入は年金が9万5千円でその他に生活保護で家賃・医療費の免除を受けていました。しかし、息子と同居することで、生活保護が打ち切られて現在は年金だけで息子と2人で生活しています


2人が食べていくのがやっとの生活で、義明さんの預金通帳が画面に映し出されますがそこには貯金が数百円しかありませんでした。


●掛川さん親子の例
安田さんと同じ団地に住む掛川幸子さん66歳と夫の善治さん69歳。夫婦2人の年金は12万円です善治さんは定年後の今も働き続け、非正規の仕事をしている30代の未婚の子供2人と同居しています。


娘の真由美さんは36歳。午前中だけスーパーのアルバイトをしています。そのため1人暮らしをする余裕はなく親元を離れられません。息子(37歳)は東京で失業し戻ってきました。現在は新聞配達をしています。


幸子さんは善治さんが働けなくなったら今の生活は維持できないと考え、将来のことを考えると不安だと訴えます。



●佐藤さん親子の例

農村のような地域のつながりが残る地域で起こった悲しい出来事が紹介されます。今年の1月岩手県の農村で親子2人が遺体で発見されました。佐藤ミツさん享年91歳、息子武さん享年64歳です。

武さんは、50代半ばで母親の介護のため仕事を辞めました。介護の必要なミツさんの病状はそれ以降も悪化し、医療費の負担が増え続けることで生活も困窮するようになっていきます。

ある日、息子の武さんが家で突然倒れて亡くなってしまいます。体が不自由で介護の必要な母親のミツさんは自力では助けを呼ぶことができずに凍死しました。収入は年金その他を合わせても月8万円でした。



浮かび上がる3つの問題点

本来一緒に暮らすべき親子が同居することで、どうしてこのような窮状へ追い込まれてしまうのでしょうか。

問題点を「高齢の親の問題」、「中年の子供の問題」、「子供と親が同居することで生まれる問題」の3つに分けて整理しました。


●高齢の親の問題
年金だけでは食べていくのがやっとの生活を送る高齢者がいます。年金は、誰でも同じ額が貰えるわけではありません。全員が加入する国民年金も加入している期間の違いから受け取る金額は違います。


年金の平均の支給額を見ているだけでは、問題が見えにくくなっています。平均よりもかなり少ない支給額の人たちもいます。


その人たちを現在の生活保護の制度で救うことは可能なのでしょうか
。制度の網の目から漏れている人はいないのでしょうか。


●中年となった子供の問題

子供を取り巻く環境も変化しています。非正規雇用は年々増えて、2014年には雇用者の4割近くが非正規雇用になりました。また生涯未婚率が上がり、結婚しないで親と暮らす子供の数も増えています。


番組で触れていましたが、国が親と同居する中年の子供の数を調査したところ、1980年代は39万人でしたが、2012年では305万人に増えました。また親と同居する未婚者(35~44歳)の失業率は10.4%と同世代の平均の2倍以上になっています。

結婚することもなく、たとえ仕事があったとしても非正規雇用で収入が少なく不安定な仕事しかありません。そのため生活するためには親と同居するしかないのです。自立したくてもできない子世代の状況が見て取れます。


非正規雇用は、正社員に比べ収入が低く、雇用も安定しません。そういった仕事にしか就けない人や、仕事自体がない人達をどうすれば救えるのでしょうか。



●親子が同居することで生まれる問題
親が働ける年齢の子供と同居していると生活保護は、なかなか受けることができません(ケースバイケースで受けることが出来るときもあるようです)。

いずれにしろ、働ける世代の子供と同居していると、最悪の場合は保護を受給していても打ち切られるケースがあるのは事実です

また親子で生活することが、周囲から問題を見えにくくしています。行政も、地域住民も1人暮らしの高齢者には気づかっても、成人の子供と同居している高齢者は、見守りの対象になりにくいようです。

今までなら、安心できた高齢者の子供との同居は、今では必ずしも安心できるとは限りません。



行政で現在取られている対策の実例

行政で現在取られている対策として世帯分離という方法が実例とともに紹介されていました。


●鈴木さん親子の例
鈴木隆(仮名)さん83歳。去年妻が亡くなり、高血圧で体調を崩しがちです。隆さんの収入は毎月9万円です。現在2人の息子と同居しています。

息子たちは日払いの仕事で自立できていません。長男(56歳)は塗装の仕事についていましたが50代より腰痛が悪化して仕事が激減しました。

このままでは共倒れが避けられないため、隆さんを高齢者施設へ移転し生活保護の申請も進める予定です。


働ける世代と同居する高齢者は、生活が苦しくても生活保護を受けにくいため、高齢者施設などへ入居することで子供と世帯を分離し、生活保護を受けられるようにします。残された子供たちには就労支援を行い、自立を促します


こうして親子共倒れを防ぐのです。


専門家が考える対策は

番組では2人の専門家の意見が紹介されていました。

●宮本みち子氏の考える対策
放送大学教授で家族社会学が専門の宮本みち子氏は、生活保護制度の欠陥だと指摘します。

親が生活に困窮して生活保護を受給しながら子供と同居することはむしろ推進した方が良く、親の介護のために戻ってきた息子が介護のために仕事を無くすようなことは放置してはいけない。

住まい、職業訓練、就労支援なども必要となるが、そのためにお金を出し惜しみしないことが大事だと説きます。


●榊原英資氏の考える対策
青山学院大学教授の榊原英資氏は、中年層のサポートを国がやるか、そのまま放置するかの選択をせまられているとしています。

当然社会保障の枠を広げるためには増税しなければなりません。中高年層(中産階級)の崩壊を放置するのか、増税して社会福祉を充実するのか政治、行政にとって大きな選択であり、それをたちに提示しなければならないと語ります。



感想

番組を観て思ったのは、親と子供が同居するきっかけとして親の介護があります。そして生活が困窮する原因のひとつは、介護のために仕事を辞めたことです。

介護は当事者にとってはとても重たい現実です。軽々しく発言できるものではありませんが、今の世の中では、介護のために仕事を辞めるのはとても危険です。


貯蓄が充分に有るか、年金などの収入が十分ある人は別ですが、そうでなければ働き続けて収入を得ながら、必要なサービスを受けるしか方法がないのが現実です。


ただし、介護と仕事の両立も難しく、行政による支援が必要なことは間違いありません。支援が全く無いとは言いませんが、昔と違い専業主婦が少なくなり、働きながら介護を続けるには、十分とは言えなくなっています。


今回の番組を観て、弱いものが身を寄せ合って生きているという印象を抱いたのは私だけでしょうか。親の世代も病気や介護などで子供を必要としているのです。1人で生きるよりはまし。もしもそうだとしたら、苦しくなるとはわかっていてもこの状況は無くならないのではないでしょうか。


今までの仕組みが機能不全を起こし始めています。番組を観て、個人的には増税は避けたいですが、それ以外に方法が無いのなら増税してでも早く手を打ち、新たな社会福祉の枠組みを作る必要があると感じました。